1991年、私が鍼灸の学校に通い始めたある日、朝刺された蚊の痒みに悩まされていた。
その日はお灸の授業で、何気なく「痒み絶好調部位」に、お灸製品である「棒灸」*なるものを、近づけて温めてみた。すると、温まるごとに押し寄せる、痒みと痛みのような快楽に溺れた後に、なぜか痒みが消失していた。このすごさに出会い、周りに話しても「本当だ。」以外何も盛り上がりがなかった。
その後も千葉大学の鍼灸院に赴任後、講演会などで話すが、棒灸に火をつける手間と室内が煙くなるというデメリットのためか、反応が悪く、その後、この話は封印していた。
数年後、娘が幼稚園の年少になり、蚊に刺され痒がっている様を見て、このことを「ふと」思い出した。しかし、この動く生き物にお灸はリスクが高い、まさしく「お灸をすえてしまう」。そうなれば、一生、娘に口をきいてもらえない。これは、小生にとって一大事である。そこで考えたのが「ドライヤー」だった。ドライヤーならどこでもあるし、安全性も高い。熱量が心配だったが、試してみると意外といける。ポイントは、患部に風を当てるとき、少しドライヤーを斜めにして、患部だけに熱風が当たるようにして、「あつ」(熱い)となるまで距離をとってあて、すぐに止める。(ドライヤーのパワーがある場合は、少し離してください)。小さい子供や高齢者には注意が必要だ。痒みは一瞬でおさまり、持続時間も薬より長い気がする。その後の講演会では、子供に強い薬を使いたくないお母さんなどに意外と好評であった。
*(自己責任でお願い致します。蚊以外の痒みには使用しないでください。炎症を起こして腫れているなどの症状にも使用しないでください。)
・・・その後、小学生になった娘にドライヤーを持っていくと「めんどくさい」と言われ、「○○パッチ」なる患部に貼り付けておくシールに負け、家ではまた、封印の日々が始まった。
鍼灸院院長(柏の葉鍼灸院)