先週に引き続き、貝原益軒が「未病」について語っています。
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薬や鍼灸を用いるのは、健康を回復させるために、やむを得ない時に行う下策です。飲食を慎み、色欲を慎み、規則正しく寝起きして、正しく養生すれば病気にはかかりません。
座ってばかりいたり、横になってばかりいたりして、お腹が張ってつかえて食欲がないという人も、朝夕に歩行をして、身体を使って労働すれば、薬や鍼灸を用いなくても、お腹が張ってつかえる心配はなくなります。このようなやり方が、上策なのです。
薬はすべて、その性質に偏りがあります。薬用人参・黄耆(おうぎ)・朮(じゅつ)・甘草(かんぞう)などの「上薬」であっても、その病状に合っていなければ、害になります。まして、「中薬」や「下薬」は、元気を損じるので、他の病気が生じてしまいます。
鍼治療も、その病状に合っていなければ、元気を減らします。お灸も、その病状に合っていないのに、むやみに行えば、元気を減らして、のぼせてしまいます。
このように、薬と鍼灸にはそれぞれ、メリットとデメリットがあります。やむを得ない時以外は、薬や鍼灸を用いるべきではありません。ただ、正しい養生法を頼みにすべきです。
(貝原篤信
編録『養生訓』巻第一 総論 上から)
千葉大学柏の葉キャンパスのウメの花 |
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貝原益軒は、漢方薬や鍼灸にも詳しかったため、病気を治療するために、これらが有効であることは十分認識していましたが、養生の大切さを強調するために、上記のように述べたのだと思われます。
なお、最古の生薬解説書と言われている『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』では、生薬を「上薬」、「中薬」、「下薬」に分類しています。
『神農本草経』では、薬用人参・朮(じゅつ)・甘草(かんぞう)は「上薬」に分類されていますが、黄耆(おうぎ)は「中薬」に分類されています。
しかし、黄耆(おうぎ)は、薬用人参や朮(じゅつ)とともに、「元気」を補う生薬として使われていますので、貝原益軒先生はいずれも「上薬」だと述べたのでしょう。(T.K.)
底本は、千葉大学附属図書館によりデジタル化され一般公開されている『養生訓』(貝原益軒の没後百年にあたり刊行された版)です。