今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」では、『源氏物語』の著者紫式部の生い立ちを軸として、平安時代中期の朝廷の様子や貴族達の生活が描かれています。
その中で、天皇や貴族が病に倒れた時には、対策としてまずユースケサンタマリアさん演じる陰陽師(おんみょうじ)(下図)に呪法(じゅほう)を依頼したり、仏僧・験者(げんざ)に加持祈祷(かじきとう)を行わせたりする様子が脚本化されていました。実際、平安貴族社会では、神秘的な力にたよって願望をかなえようとする「呪術(じゅじゅつ)」への信頼性が非常に高かったのかも知れません。
では、薬物治療や鍼灸治療は行われていなかったのでしょうか?
実は、当時の朝廷内には「典薬寮(てんやくりょう)」という「医術(いじゅつ)」を行う部門が設置されていました。「典薬寮」には、医師(くすし)・鍼師(はりし)・按摩師(あんまし)などが待機していて、これら医療者を総称して平安貴族たちは「くすし」と呼んでいたそうです。朝廷内で官位を持っていれば「くすし」による治療を受けられることになっていたそうです。
平安貴族たちが病気になった時の対策として、大きく呪術と医術の二つの方法が存在することはごく当たり前だったことのようであり、貴族達は呪術と医術を相互補完的に使いこなしていたようです。TK
参考文献
繁田信一「平安貴族社会における医療と呪術」宗教と社会1巻p77-98(1995年)
小曽戸洋著「新版 漢方の歴史」大修館書店(2014年)
小曽戸洋著「針灸の歴史: 悠久の東洋医術」大修館書店(2015年)