どうして希望者全員にPCR検査をしないの?(その3)

2020年2月26日水曜日

t f B! P L
過去2回のブログからの続きです。

どうして希望者全員にPCR検査をしないの?(その1)で、

1回のPCR検査で、「新型コロナウイルス感染の方が、正確に陽性になる確率」はせいぜい50%程度ではないかと推測し、

どうして希望者全員にPCR検査をしないの?(その2)で、

1回のPCR検査で、「新型コロナウイルスに感染していない方が、正確に陰性になる確率」は99.9%と想定しました。

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今回はいよいよ本題の、「なんで希望者全員にPCR検査をしてくれないんでしょうね?」というご質問に対して、臨床検査の的中率という観点からお答えしてみたいと思います。

現在、日本の各自治体からの発表によると、日本国内での新型コロナウイルス感染者数は合計で150-200名程度となっています。しかし、残念ながら新型コロナウイルス感染者数は今後増える可能性もありますので、今回のブログでは「感染者数が1,000名になっている日本」を仮定します。

一方、新型コロナウイルスには感染しておらず、検査を受けることになる方がおよそ1億人いることになります。

このような感染状況の社会において、1億人の方に次々と、100点満点で50点の「新型コロナウイルスに対するPCR検査」を行ってしまったらどうなるかを予測してみます。


上の図から、的中率(正確には陽性的中率)、すなわち「実際にある人の検体を使ってPCR検査を行って、結果が陽性と出た場合、その人が本当に感染者である確率」を計算することができます。

驚くべきことにその的中率は0.5%にしかなりません。

実際の臨床症状から「新型コロナウイルスに感染している」ことを強く疑ってPCR検査をしたとしても、的中率0.5%というのでは、PCR検査の結果が全く判断の材料にならないものになってしまうことになります。

逆に、「新型コロナウイルスに感染していない」多くの方が陽性だと言われることになりますので、こちらの方に対しても社会的対応が難しくなります。

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以上から、「希望者全員にPCR検査を行うこと」は、多大な費用と貴重な労力の無駄遣いになるとともに、「実際に新型コロナウイルスに感染している方」にとっても、「実際には新型コロナウイルスに感染していない方」にとっても、不利益をもたらすやり方ということができます。

このような理由で、新型コロナウイルスに対するPCR検査は希望者全員に行うような検査ではないのです。ご質問頂きました方、ご理解頂けましたでしょうか?(T.K.)

次回のブログに続きます)

(追記)厚生労働省では現在、新型コロナウイルス感染症に対するPCR検査を保険適応にする検討が始まっているようです。しかし、もし現場の医師が希望者全員にPCR検査を行ってしまうと、今回のブログで検討したようにPCR検査の信頼性が極端に落ちてしまいます。

そこで、近い将来、医師が保険で検査依頼できるようになった時には、きちんと適応のある患者さんに検査依頼をしているかチェックできるよう「症状詳記」を義務づけるべきかも知れません。

(※)「新型コロナウイルス感染の方が、正確に陽性になる確率」を感度と言います。「新型コロナウイルスに感染していない方が、正確に陰性になる確率」を特異度と言います。

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