『養生訓・総論 上』(10):「未病を治す」とは?(中)

2016年3月8日火曜日

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タイトル:『養生訓・総論 上』(10):未病を治す(中)

先週に引き続き、貝原益軒が「未病」について語っています。

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 いにしえの君子は、好んで礼儀を重んじ、音楽を楽しみ、弓術や馬術を学び、力を使って働きました。詩歌を詠(うた)ったり、舞を踊(おど)ったりして血液のめぐりを良くしていました。また、心を安定させ、欲望を満たすのは節度あるものとし、寒さや暑さなどの「外邪」による影響を最小限に防いでいました。常にこのような生活をしていれば、鍼灸や薬を使わなくても、病気になりません。これこそが、君子が行う正しい養生法であり、上策です。
 
 病気にかかることが多いのは、みな正しい養生法を行っていないからです。病気になってから、苦い薬を飲んだり、痛い鍼や熱いお灸をして、父母から頂いた体を傷つけ、火をつけ熱さと痛みにこらえて体を責めて病気を治療するのは、本末転倒であり、下策です。

 たとえば、王様が徳をもって国を治めれば、民衆は自然に感化され反乱は起こらず、王様が軍隊で民衆を攻める必要はなくなります。

 正しい養生法を行わないことは、まるで王様が国を治めるのに徳を用いず、民衆を治める正しい方法を行わないのと同じです。病気になってから、ただ薬と鍼灸を用いて病気を攻めるのは、まるで王様が家来や民衆から恨まれ背かれ、反乱を鎮圧しようとして、軍隊を使って戦うようなものです。

 このような状況で、たとえ王様が百回戦って百回勝ったとしても、全く価値がありません。

 正しい養生法を行わず、(病気にかかってから)薬と鍼灸に頼って病気を治しても、それは好ましいことではありません。

(貝原篤信 編録『養生訓』巻第一 総論 上から)

白梅(千葉大学柏の葉キャンパスから)
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 貝原益軒は、漢方薬や鍼灸にも詳しかったため、病気を治療するために、これらが有効であることは十分認識していました。
 
 実際は、おいしい漢方薬もあり、鍼治療は痛くなく、お灸は熱すぎず気持ちよいものです。

 しかし、今回は、「正しい養生法」の必要性を強調するために、貝原益軒は漢方薬や鍼灸に対してあえて上記のような表現をしたものと思われます。(T.K.

 底本は、千葉大学附属図書館によりデジタル化され一般公開されている『養生訓』(貝原益軒の没後百年にあたり刊行された版)です。

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